アメリカ上陸 4
基地で経験したアメリカ人たちの傲慢ぶりはどこにも見当たらず、みな気の良さそうな人たちに見えた。
両親は五十代で、痩せて恐ろしく背の高い父親は、剛いごま塩の髪の下の顔が白人にしてはひどく浅黒かった。
刑務所のガードをしていて、始終外で囚人を監視する仕事をしているということで、日焼けの顔が納得できた。
やはり背の高い母親は、デップリ肥っていて、パーキンソン病で右手が始終痙攣していた。
病気が言葉にも影響するのか、不明瞭で、慣れた人にしか聞き取れなかった。
ミス カウンティ(郡)になったという、アンディより十五才も年下のジョージアナはなかなかの美人で、精一杯甘やかされて育った末子らしく、明るくお喋りであった。
食べたり話したり笑ったりしている最中、父親が、時間だ、と言って、最近買ったばかりだというテレビをつけた。
白黒のスクリーンに、コメディアンがジョークを言って、観客をひっきりなしに笑わせていた。
アンディはすぐ引き込まれて他の人たちと笑いながら熱心に見ていたが、まだ英語の早口のジョークまで聞き取れぬ瑤子は、ただ微笑んで画面を見ていた。
賑やかな夜も更け、ようやく親類たちが帰途についた後、アンディと瑤子は二階のベッドルームに案内された。
古臭い匂いのする大きな部屋には鉄製のダブルベッドと小さな揺篭が置かれてあった。アンディは揺篭を見ると、自分たちはみなこの揺籠で育ったんだ、と懐かしそうに触れていた。
その夜、風邪ぎみのエミイが咳をし始め、なかなか止まらなかった時、隣室の母親がノックもせず、いきなりドアを開けて入ってきて、ヴィックス軟膏をエミイの胸に塗り、また黙って出て行ったので、アンディも瑤子もベッドの中で唖然とした。
その後もこのような姑の不躾ぶりには幾度となく瑤子は驚かされたり、気を悪くさせられたりした。
二週間の休暇が終り、アンディはメリーランド州のフォートミードに一人で発つことになった。
その朝、早起きの彼は、まだ瑤子が寝ているうちから起き、靴を磨いたり、衣類をカバンに詰めたりしていた。
朝に弱い瑤子は、出発までまだ充分時間が有るのでもう少し、もう少しと、起きるのを延ばしていると、アンディが側に来てジョージアナが言うには、もし瑤子が起きて朝食を彼に作ってやらなければ、ママが彼女の首を絞めてやる、と言っているそうだと瑤子に笑いながら話した。
アンディが出発して、瑤子親子は彼の両親の家で暮らし始めた。