Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁                         

          共同生活 ニュージャージー州 4

イタリヤ系のオーナー夫婦は、ある時入ってきた四.五人のユダヤ人の女たちを酷く軽蔑し、後で彼女らの口真似をして嘲笑っていた。

見たところ他の白人と変わりなく見えるユダヤ人を、どうして彼らが蔑視するのか、瑤子には理解できなかった。

白髪混じりの髪をポー二ーテイルに束ねた女主人は、亭主とハデな喧嘩を瑤子たちの前で繰り広げて平気だった。

四ヶ月ほど働いてようやく仕事に慣れた瑤子であったが、ある日、ボスのちょっとした口の利き方に腹を立て、当然貰える三日分の給料も貰わずに辞めてしまった。

客に貰ったチップも入れて、親子三人がドイツに行けるほどの金がたまっていたので瑤子は平気であった。

夫たちが出て行ってから、はや半年以上過ぎていたが、その間に瑤子はアメリカ市民権を取り、米国のパスポートも取って、着々と出発の準備を進めていた。

節子とどちらが先に発てるか、ということで、瑤子の胸中は穏やかでなかった

化け物屋敷のようなその家に瑤子親子が取り残される、ということは、なんとしても避けたかった。

幸い瑤子たちに出発の命令が先に来て、その年の十一月に親子はドイツに向かって発つことになったが、その前に困ったことが起きた。

普通は軍が家族の車を外国の赴任先に送ってくれるのだが、月賦がまだ残っていて所有権の無い車は送れぬ、と言われ、仕方なく、瑤子はドイツからの長距離電話でアンディに言われたように、ヴァージニアの両親の家に車を持って行くことになった。

軍から廻された運送屋が、少ない瑤子の荷物を持って行った後、彼女は四才と二才になった子供たちを連れ、地図を頼りにヴァージニアに向かった。

必死の思いで発った瑤子であったが、途中何事もなく、一日でヴァージニアに着くことができた。

アンディの父親は車を小屋に入れ、バッテリーの充電のため時々動かしてやる、と言った。