Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁                         

           共同生活 ニュージャージー州 3

四、五日の入院後、節子は帰ってきた。

彼女を気使うあまり、ジョーンズがくどいほど瑤子にあれこれ指図するので、我慢できなくなった瑤子は「私は家政婦でも看護婦でもないのよ」と、節子に言った。

自分のベッドとロバート用のクリブだけは持っていた瑤子は、その家に投げ捨てら

れてあったマットレスを見つけ、軍隊のカット(鉄製ベッド)の上に置き、別室に入れてエミイを寝かせていた。

やがてエミイはなにかに喰われて体中ポツポツ赤く腫らし始めた。

ジョーンズがいたある晩、瑤子は自分のベッドに這う黒い虫を見つけて、彼らの部屋に持って行き、これはなんだと聞くと、南京虫だという答えが返ってきた。

驚いた彼女は、早速次の日薬局に行ってDDTを買い、マットレスや床に撒き散らした。

ジョーンズは二人の幼子と妻を残してドイツに発っていった。

女、子供の六人の生活が始まった。

瑤子の手にする金の三分の一は車の月賦に持っていかれた。

母にもまだ毎月三十ドル欠かさず送っていた彼女は、ドイツまでの長い道中、いくら軍の船で行くとはいえ、その間の食費やチップのことを思うと、じっとしていられなかった。

幸い、瑤子の子供たちが、おっとりした節子に慣れ始めたので、月給の半分を払って子供たちをみてもらい、働くことにした。

新聞の広告で見たウエイトレスの仕事に応募するため、瑤子は町はずれにポツンと建っていた小さなレストランに行ってみた。

なかなか入る勇気が出ず、客が全部いなくなるまで、小一時間もそこの駐車場の車中でグズグズしていた。

不審に思ったのか、オーナーが出てきて、そこらを歩き回ったりするので、彼女は度胸を決めて中に入って行った。

オーナー夫婦は、市民権もソーシャルセキュリティ(社会保障)のカードも持たぬ瑤子を雇うことをためらったが、日本人の瑤子に好奇心も手伝ってか、いずれ弁護士に相談するから、と言って雇ってくれた。

生まれて初めてのウエイトレスの仕事を、瑤子は不器用ながらもなんとかこなしたが、ただ機械からニョロニョロ出てくるソフトクリームを、器用な手つきでコーンにおさめることだけは、どうしてもできなかった。

大抵の客は彼女の不慣れを見過ごしてくれたが、中には注文を書き取る彼女の伝票を見せろ、と言って見て、「やっぱりネ、」と言って笑った女客が居た。

ハンバーガーのスペルのUをEに書いてあったのを笑ったのであった。