Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                        

         アンディの故郷 ヴァージニア州 9

  農業国ヴァージニアでは、農家の豚が時々柵外に出て野生化し、それらが子豚をなし、その群が野山を駆け巡って、畑の作物に被害をもたらすことが度々あった。

そのような豚の群れが、小川の岸辺で野生の三つ葉を食べているのをアンディが見つけた。

トミーの死後沈みがちなドンを慰めるためにも、彼とその友達を誘って豚狩りをすることになった。

ドンとその仲間はその前日の夕方来て、アンディと共に豚の飼料の入ったバケツを持って川端まで撒きに行った。

翌日の朝早く来るであろう豚が餌を食べているところを襲おう、という仕掛けであった。

蛍が飛び交うようになった暗い屋外で、騒がしい話し声が聞こえ出し、彼らが川端から帰って来たことを知った瑤子が出て見ると、空のバケツを持った男達は、なにやら興奮した声で話していた。

聞くと、餌を撒いていた男達に大きなオス豚が襲い掛って来た、ということであった。家族を連れたオスは非常に戦闘的で、牙をむき出して襲い掛かる豚は大の男でも怖がる、と言われるが、豚に追い回された彼らはバケツを放り出して木に登ったのだ、という

そのような豚をまだ見たこともなかった瑤子は、なんだか大げさな話だ、と聞いていた。

その晩、二本の銃の手入れをしているアンディに、本当に豚ってそんなに怖いものかしら、と瑤子が笑って聞くと、彼は珍しく真剣な顔で、豚の恐ろしさを語り、翌日一緒に行くつもりの瑤子に充分気をつけるよう、注意した。

夜明け、あたりが白み始めた頃、身支度した瑤子と四人の男たちは川端に下りて行った。

うっかり枯れ枝を踏んで音を立てぬよう、静かに歩いていた彼等に、フンフン鳴く子豚と、たまにブウッと唸る親豚が聞こえてきた。

彼らは顔を見合わせて合図し、お互い十メートルほどの間隔を取り、一列横隊で静かに音の方に進んだ。

豚の鳴き声はますます近くなり、瑤子の身は興奮で引き締まった。

彼女は歩を止め、銃の安全弁をはずして身構えた。

突然、巨大な豚が、向かって右方十五メートルの雑木の繁みから、飛び出して来た。

鼻ずらを地面近くにつけ、フウ、フウ荒い息を吹きながら走る豚は、真っしぐらに走ったが、瑤子に気がつくと彼女目がけて突進して来た。

瑤子は近寄る巨塊めがけて発砲した。豚は瑤子から約七メートルの位置でもんどりうつと、すぐ起き上がって向きを変え、彼女の横を走り抜けた。

すると、すぐ瑤子の後部で銃の音がして、 「殺ったぞ!」”というドンの声が聞こえた。

豚は瑤子の弾に肩を撃ちぬかれ、ドンのすぐ脇をヨロヨロ歩いていたところを、頭を撃たれて死んだのだ。

三百ポンドもあるオス豚を、男達はわいわい言いながら担いで家の側まで持って来た。

最初に撃った瑤子に敬意を表してヒレ肉を提供し、酢漬けにすると言って、頭まで持った男たちは、愉快そうに肉を担いで帰って行った。

去勢されていなかったオス豚の肉は、匂いが強くてアンディも瑤子も辟易したが、他の者たちは料理の仕方を知っていたのか、柔らかくてうまかった、と言っていた。