Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁                         

             ドイツ 2

楽しまぬ十日間の船旅もいよいよ終わりに近付き、船はどんより曇ったブレマハーヴエンに入港した。

だが、いよいよ夫に会えると、総勢デッキに出ていたワイフたちに衝撃的なニュースが伝わった。

船内で子供が一人病気になっていたが、小児麻痺を疑われ、そのため一同下船を禁止する、という命令が出て、いつ解除されるか解らぬ、ということであった。

ソルクの予防接種はまだ発明されていなかった時代であった。

極度に落胆した女たちは、いまにも爆発しそうな雰囲気を醸し出していたが、幸いなことに翌日ポリオでないことが解り、下船を許された。

女たちはそれぞれ夫の任地に行く汽車に乗せられ、瑤子親子もスツッツガート行きの汽車に乗った。

数時間後、スツッツガートで降りた瑤子は、長いホームの端から駆け足で来るアンディを見出し、安堵で倒れそうになった。

親子四人はしっかり抱き合い、人目も構わずお互いの頬にキスの雨を降らせた。

そこからまた汽車で二時間ほどで着いた小さな町、ハイルブロンがアンディの任地で、いかにも新開地らしい、あまり樹木の無いその基地に多数建てられた一棟、一八軒収容の三階建てのアパートの二階に瑤子たちは落ち着いた。

アンディは、もう映画館では働いていなかったが、歩兵隊に属する彼は、レ クラークというライフルのチームのメンバーとして、始終トーナメントのため、ドイツの米軍基地を回って歩いて、留守勝ちであった。

一応、表面上は落ち着いた生活が始まった。

だが、エミイは相変わらずあちこち一人で歩き回りたがり、一度など、同じアパートの年下の三才の女の子を連れ、歩いて二十分ほどのカムセリに行き、バスケットにパンなど入れていたところを捕まり、MPに連れ戻された。

その子の父親がMPだったので、彼は、MPの子が万引きで捕まった、とぼやいていた。

いうことをきかなくて困る、と瑤子がこぼしても、見たところ実に愛くるしいエミイがそのようなヤンチャだとは、留守勝ちのアンディや他人には信じられなかった。

三才になったロバートもエミイと共に外へ遊びに行くようになったが、ある日、遊び場でブランコにぶつけられた、と泣きながら帰って来た。

片方の耳たぶの中央が真っ二つに引き裂かれていた。診療所に連れて行って縫ってもらったが、一針ごとに痛むらしく、叫び声は待合室の瑤子にも届いた。

ロバートの絆創膏がまだとれぬ一週間後、今度はエミイがブランコに当たり、目の上二針ほどの傷を受けた。