Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁            

        ウイスコンシン州 1

ウイスコンシンでは小高い丘上の古い二階家を借りた。

持ち主が以前牛を放牧しながら住んでいたというその家は、カラカラ鳴る十メートルも上空の風車で水を汲み上げセメントの巨大なタンクに溜め込む、という、西部劇に出てくるような家であった。

牛がいまだに放牧されているなだらかな丘陵に囲まれた家の周りに人家は一軒もなかった。

アンディは丘の下のキャンプ、゚マコイまで三十分ほどドライヴして通勤した。

牛がたまに窓辺でモーと鳴くような、のどかな田舎の風景は瑤子を喜ばせた。

エミイがフラフラ歩いて行って邪魔する隣家もなく、一週五日、毎日八時間働いて寄り道もせず帰って来るアンディと子供たちに囲まれ、彼女は幸せであった。

家の裏の、毎年牛糞をふんだんに鋤入たであろう真っ黒な土の畑で、アンディと共に彼女は生まれて初めて花や野菜を育てた。

何もかも見事に育って、食べきれぬほどであった。

瑤子が始めて見たルーバーブと呼ばれる大黄の、ルビーのように紅く美しい茎を使って、彼女はパイを作り、ちょうど訪ねてきた家主の老人にご馳走すると、目を細めて喜ばれた。

しかし、何もかも良いという天国ではなかった。

一週に一度ほど、瑤子はよく一人でドライヴして町のスーパー、というより、雑貨屋といったほうが良いような店に買い物に行った。

途中寄ったガソリンスタンドの若い男に、タイヤがパンクしそうだ、と言われた彼女は、山道を一人で帰らねばならぬことを考慮して、では新しいタイヤと取り替えてくれ、と頼んだ。

“新しい”タイヤで帰宅した彼女がアンディに、タイヤがパンクしたから新しいのを買ってつけてもらった、と言うと、彼は驚いて、あのタイヤはシーアスで買ったばかりだった、と言った。

別にパンクもしていなかった新品のタイヤを、無知な瑤子は金を払って中古タイヤと交換してきたのだ。

そして、恐ろしいトーネード(竜巻)。

八月の半ばになると、テレビでよく竜巻の警報が出された。

ある日の夕方、昼過ぎからモクモクと西の空に巻き返していた黒雲のため、昼なのに、あたりが真っ暗になり、大風が恐ろしい勢いで吹き始めた。

幸い家には地下室があり、その中で一家は、唸り声を上げる風と稲妻と雷の轟音に生きた心地もなく、肩を寄せ合っていた。

そういうことを予期して頑丈に建てたのであろう、家や風車に被害はなかったが、瑤子は強風の恐ろしさをいつまでも忘れられなかった。