Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁

           コロラド州 2

満五歳になったエミイは、その九月から幼稚園に通うことになった。

毎日スクールバスで送迎されていた彼女が、ある日、校長だという男の車に乗せられて帰ってきた。

校長の後ろで、背もたれに手をかけて立っていたエミイを降ろすと、プーンと嫌な匂いがした。エミイがまた大便を粗相したのだ。

アンディがテレビを買って来た。一九インチほどのテレビを持って入って来た彼は、黙ってそれをベッドルームに取り付けた。

その事が車の月賦をようよう払い終わった直後、これから一息つける、と安堵していた瑤子を、これまでにないほど怒らせた。

アンディはもちろん、子供たちも一斉にテレビに引きつけられたが、頻りに誘うアンディを尻目に、瑤子は二週間ほど見ようとしなかった。

エドシルヴァン ショウや、アイラヴルーシィが全盛の頃であった。

酒もタバコものまず、それこそ女癖も無いアンディであったが、家族のためとはいえ、買ってくる品物の月賦で家計が苦しくなるのが、瑤子には堪らなかった。

余裕ができたら、あれもしよう、これもしよう、と心積もりしている彼女をいつも出し抜くような行動をするアンディが、憎らしかった。

彼女がなによりもしたかったのは、僅かでも貯金して、イザという時に備えることであった。

アンディにそれを言うと、「イザという時とはどんな時だ、」と笑いながら聞く彼に、いつも微かな不安を感じているだけの彼女には、具体的なことが言えなかった。

曲がりなりにも政府から住宅や医療を保障されている彼らにとって、イザという時などあり得ない、というのが彼の持論であった。

結局、アメリカ人特有の楽天性とユーモアに負け、手をかえ、品をかえ、ご機嫌をとるアンディに笑わされてしまい、もうどうでもいいやと、投げ出す瑤子であった。

あくる年、トレーラーも埋まるかと思えた五月も半ばの大雪の直後、一家はようやくアパートに入れるようになった。

その基地内のアパートは、またもや上下に別れた木造バラックで、二階に入れられたオハラ一家は、小さな子供たちがちょっと走っただけでも下から箒の柄でドンドン突かれ、いつも嫌な思いをしなくてはならなかった。

瑤子はドイツで知り合った博美と相変わらず交際を続けていた。

四人の子持ちの博美は、夫のサムが酔うと子供を殴り飛ばす、というようなことや、瑤子と同じように二階に住む彼女も始終階下の住人とトラブルがありそれを瑤子に打ち明けることで、ストレスを解消していたようであった。

博美は毎日のように電話で瑤子に遊びに来るよう、誘った。

エミイが幼稚園に行っている間、下二人の男の子を連れて瑤子が訪ねると、博美は大喜びで、うどんを作ってご馳走してくれた。

瑤子より五歳ほど年上で、料理も上手く、歯に衣着せぬ話しは面白く、陸軍大佐の娘だそうだが、仙台弁まる出しで瑤子を歓待してくれた。

子供同士も友達になって一緒に遊んだので、彼女は訪ねて行くのが楽しみだった。

夫同士も、休日には一緒に車を修繕したり、山に鉱石探しにいったりして愉快そうであった。