Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁       

          障害児の娘 ジョージア州 5

 日本を出た時、あのように利発なエミイの障害の原因を、瑤子はいろいろ考えてみたが、ヴァージニアに来たばかりの時起こした、高熱のためのひきつけしか考えつかなかった。

エミイは少し離れたダウンタウンの、特別教室がある学校にバスで通うことになった。

気落ちしながらも、障害を持つ子を含めた四人の子供たちを、必要とあれば自分一人ででも育てていかれるようにと、瑤子は英語を早くマスターすることに努力した。

読むことが好きな彼女は、アメリカの安易な通俗雑誌、“ツルーストーリー、”とか、“コンフェッション”等を買って来て、書かれてあるラヴ ストーリーの結末が知りたさに、辞書を手離さなかった。

日本から持って来た“風と共に去りぬ”は、ジョージアに現在住み、自国の戦後も体験した瑤子には特に興味深く、何回も繰り返して読んでいたが、やがて飽き足らなくなった瑤子は、原書を買って読み、翻訳書に見出せなかった文章の妙味を味わった。

それからは、さまざまな古典や名作を図書館から借りて来て、次々と読み進んでいった。

本に没頭している間だけはエミイの障害の事を忘れていられた。

“宝島、”“虚栄の市、”“チャタレィ夫人の恋人、”等等、瑤子の読書欲は際限なく、彼女は一冊毎に、著者の優れた才能と人生哲学に深く感動させられた。

最初テレビを買うのを反対した瑤子は、連続ドラマにもはまりこみ、毎日午後が来るのが待ち遠しいほどであったが、それも英会話の練習に役立った。

家を直すと宣言したアンディは、手始めに、天井に巾一メートル、長さ二メートルほどの板を張り付ける仕事にとりかかった。

板はなにかの繊維をセメントのようなもので固めた、壁板にも使われるもので、非常に重く、梯子にのって片手でそれを持ち上げ、片手のハンマーで天井に打ちつけることは大変な仕事だったが、何とか一人でそれをやり終えた。

その後しばらくは、肩を痛めてなにもできなかったが、少し良くなると、屋根裏に断熱材を入れ、床にフローリングを敷き、全館暖房の設備を取り付けたりして、新しく建てるのと同じ位手間と金をかけたが、仕事は遅々として捗らなかった。