Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁       

           障害児の娘 ジョージア州 6

その間にも彼は看護兵として、度々二週間、一ヶ月と、演習に行く歩兵隊について

行かなければならなかった。

それでも、ようやく一応人並みになった家に飽き足らず、ある日彼は、道で見かけた作業中の土木業者と契約して、台所とバスルームの改造を頼んで来た。

材料を買うため金が要る、と全額前金で受け取った黒人の業者は、早速来て台所の壁を外から崩し取った後、そのまま姿を見せなくなった。

夏のこととて寒くはなかったが、大量に進入してくる蚊や蝿に瑤子たちは苦しめられた。

仕方なくシーツを下げて穴をふさいでいたが、二ヶ月以上も音沙汰無しの業者に辛抱できず、それまでは自分の英語に引け目を感じて何事もアンディ任せだった瑤子は、ある朝、業者の家に電話をした。

電話に出たワイフは、「まだやっていなかったのか」と驚いて、ハズバンドが帰ってきたらすぐ電話させる、と言った。

午後になって電話をしてきた彼に、瑤子は、今まで、あんたたち黒人の事情にすっかり同情していたのに、こんな調子ではその同情も薄らぐ、と、はっきり言ってのけた.

まだ公民権運動も盛んでなかった頃である。

黙って聞いていた彼は、明日行く、と約束した。

あまり当てにしていなかった瑤子は、翌日彼を見て驚いた。

彼は部下をテキパキ指図して、床にセメントを流すことから始まる仕事を数日で仕上げた。

この出来事は瑤子の言葉のコンプレックスが拭われ、少しづつアメリカ社会に馴染み始めていった。

その頃、突然、日本時代に親しくしていた富田がワシントンに居るけど、会えないか、と言ってきた。

瑤子たちより二、三年後に結婚して、男の子が三人いる富田は、製鉄会社で通訳や翻訳の仕事をして世界中を廻っていた。

子供たちを車に乗せ、オハラ一家はワシントンに出発した。

近くのメリーランド州のフォートミードに半年前に移って行ったグリーソン家にも富田と一緒に訪ねるつもりだった。

大会社に勤める富田は、品の良い中年紳士になっていた。

四人の子の母親になり、貫禄のついた瑤子を見て

「相変わらず綺麗で、幸せそうで、良かった」とお世辞とも本音ともつかないような言葉で約十年ぶりの再会を喜んだ。

彼と訪ねたグリーソン一家は、フォートミードの郊外の田舎家に、騒がしく吠える多くの犬たちと共に、喜んで彼らを迎えてくれた。

富田は日本の基地から巣立って行った娘たちがアメリカ社会に根を下ろし、平和に、幸せそうに暮らしているのを見て心から安心したようだった。

グリーソンは、後半年ほどで二十年間の軍隊生活に見切りをつけて、恩給を貰いがてら、どこかに勤める、と言っていた。

ワシントンから帰った後も、留守勝ちのアンディに代わり、シヴォレーを駆使して家事全般を采配することが当たり前になっていた瑤子は、ロバートのクラスで先生の手伝いをしたり、エミイの教室の見学にも行った。