Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁       

            障害児の娘 ジョージア州 4

二年生になったエミイの成績は芳しくなく、読み書きは一応できるが、算数が一切ダメだった。

焦った瑤子は彼女が学校から帰ると、テーブルにボタンを置いて“一足す一”から教えようとした。

算数の原理を理解することができない彼女は、物覚えだけは非常に良くて、簡単な足し算は暗誦していて答えができたが、少し上にいって、九足す三は、と聞くともう解らず、ヨソ見をしたり、あくびをしたりして瑤子を苛立たせた。

とうとう我慢の限度に来た瑤子に叩かれると、彼女は大声で泣き出して「ボタンを数えるのは嫌だよー、」と叫び、「グランマー、グランマー」と自分を愛してくれてもいない、アンディの母親を呼ぶので、瑤子はますます苛立った。

その肝心のグランマーは、次々と生まれた子供たちの誕生を知らせても、祝いの言葉一つ寄こさない人であった。

瑤子は怒りが治まる度に、エミイの心根を思って哀れでならなかったが、このまま成長したら尚のこと哀れと、なんとかして彼女に簡単な計算を覚えさせよう、と躍起であった。

アンディが近所の十代の女の子に、エミイの家庭教師をしてくれ、と頼んできた。

そんな生易しいことで解決する問題でないことを知っていた瑤子は、暫く黙って見ていたが、何もせずただエミイとお喋りばかりする彼女を、瑤子はアンディに言って断らせた。

留守勝ちな彼は、夜と週末にしか接しない、一見“普通”のエミイの障害の深刻さが解らなかった。

発達障害」という言葉など、アメリカでもあまり聞かれぬ頃であった。

かりにあったとしても、個人の専門医などに診せる金も保険も瑤子たちにはなかった。

担任の白髪の女教師から、エミイを鑑定してもらうように、という手紙が来た。

いよいよ娘の障害を認めざるを得なくなったアンディが、一日かけて自分の働く

病院に連れて行って、心理学医に相談すると、種々のテストの結果、ボーダーラインの“精神薄弱”という診断が下された。

知能は九、十歳止まりで、それ以上は良くならないであろう、そして、年を取るごとに、扱いにくくなるであろう、というのが医者の予測であった。

いよいよ自分の疑惑が現実化された瑤子の失望は、筆舌に尽くせぬほどであった。