Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁     

                障害児の娘 ジョージア州 9

アンディが発ってから一月ほどして、就職したけれど、家族を迎えに行く金を貯めるまで、暫く置いてくれないか、とグリーソンから電話で頼まれた。

それまでいた友人の家に居辛くなったのであろう、と瑤子は快く承諾して、また彼のための部屋を用意した。

なんと言っても、主人の留守の家族は心寂しく、子供たちも賑やかな性格の彼を喜んで迎えた。

近所の牛乳会社に勤め始めた彼は、胸に会社のロゴ入りの白いシャツを着て通勤した。

朝は子供たちとほとんど同時に出勤し、午後の五時頃帰って来る、という日常で、瑤子はアンディがいる時と同じように毎夕、食事を作って彼を待った。

毎晩夕食が終わった後、子供たちはテレビを見に、リビングルームに行ってしまい、することもないグリーソンはテーブルを離れず、目鼻の大きな顔を熊のような手で撫でまわしては、駄洒落やホラを入れ混ぜた南部訛りのお喋りを、して、瑤子を楽しませた。

一九ニ十年代の大恐慌時代にミシシッピーの貧農の家に生まれた彼は、小さい時から、ほとんど自分一人の才覚で、軍隊生活も含めた四十数年の人生を生き延びてきたような男であった。

少年時代のミシシッピー沿岸での魚釣りや狩猟、十代で家出した後の生活、ガダルカナルや沖縄等の戦場の話しは、まるでハックルべリーフインや、トムソーヤの冒険物語のように活気に満ちていて、久しぶりに声を立てて笑う瑤子は、時の経つのも忘れて聞き惚れた。

犬好きの彼は、まるで犬と育ったように犬の性癖に詳しく、まず最初に瑤子に教えたことは、犬たちが追い詰めた獲物を取り囲んで吠えることを、“べイィング、”と言い、獲物を嗅ぎつけた犬がその方を見ながら不動の姿勢で立つことを、ポインテイング、”というのだ、と犬の動作や吠え方まで真似て見せながら説明するのであった。

二人の間にあった遠慮の壁がだんだん薄らいでいった。

その頃には瑤子もうちとけて、エミイのトラブルを彼にこぼすようになっていた。

あんな綺麗な子にそんなことがあるなんて、と彼は驚いたが、瑤子の話しを親身に聞いてくれた。

スラリとした美少女に成長したエミイは、一見、精薄とは誰の目にも映らなかった

それゆえ、瑤子にとって、また違う種類のつらい事件が度々起こるようになっていた。いっそのこと動けもしない重度の障害児であったら、どんなに楽だったろう、

とさへ思うことが度々あった。

ちょいちょい外泊するようになったエミイは、順々と言い聞かせようとする瑤子に、相変わらず滅茶苦茶な口答えをし、一度、いきり立った瑤子を尻目に、側にあったナイフを逆手に握るようなことまでした。

「そのナイフでどうしようっていうの」と瑤子が詰め寄ると、なんにも、とさすがにナイフを置いたエミイを見て、もう駄目だ、と瑤子は絶望で叫び出しそうになった。