Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                       

                 狩猟    ジョージア州 13

広い野原の中では彼女の悩みなどほんの些事に思え、地平線まで続く原野の中で彼女の心は解き放され久しぶりに味わう開放感だった。

やがてグリーソンが車のトランクを開けて放した二匹の犬は、暫くピンと立てた尾を振り振り、雑木の繁みを嗅ぎ回っていた。

突然、ウォーンと唸り出した雌犬のもとに雄犬が駆け寄り、興奮で身震いした犬共は、藪から走り出たコットンテール(白尾の茶ウサギ)を追い始めた。

それまでの経験で追われたウサギがやがて元の巣に帰って来る習性を知っていた瑤子は、澄んだ大気に良く透る犬の鳴き声を楽しみながら、ウサギが跳びだした繁みのあたりで待っていた。

百メートルも行ったであろうか、ウサギが方向転換して帰って来るのが犬の吠え方で解った。

落ち着いて、落ち着いて、と、速やる心を鎮めながら、瑤子はそーっと銃の安全弁を外した。

やがて近くの枯れ草がカサコソ鳴った, と思う間もなく、ウサギが瑤子の右手に姿を現し、彼女の方向にゆっくり跳ねてきた。

狙いをつけた銃の引き金を引いた瑤子は その轟音と、体の上半分が吹き飛ばされたウサギを見て、驚愕のため呆然と立ち尽くした。

「なんだ、スラグを入れてたのか」と言いながら近寄って来たグリーソンは、身動きもせず死骸を見守っている瑤子を呆気に取られて見ていたが、やがて、腕を廻して彼女の肩を抱き、その頬にパッと乱暴なキスをした。

鹿撃ち用に作られたスラグは、鉛の塊りが弾丸型に作られてあり、鳥やウサギの小動物用には、通常バードショットと言われる五リほどの小さな鉛玉を数十個包んで弾丸に作られたものを使用する、ということを瑤子は知らなかった。

そういえば、アンディが残して行った弾には赤と緑があり、緑の弾が小動物用であ

ったのだが、無知な瑤子がどれでも同じであろう、と使った赤の弾がスラグであった。

「これじゃあ、肉はほとんど残ってないヤ、」とぼやきながら、ナイフを使って

器用に内臓を取り出し、皮を剥いだ赤裸のウサギの足をベルトに結わい付け、枯れ草で手やナイフの血を拭い取るグリーソンを見ながら、瑤子は今まで知らなかった世界に手探りで踏み込んだ思いであった。