Mrs Reikoの長編小説                             

            慟哭 再びカリフォルニア州 13

 六月の一四日に、ポールが死んだ。

後二ヶ月ほどでドイツから帰国する予定であった彼が事故で死んだ、と空軍は説明した。

その朝、瑤子はいつものように体操をするつもりで着ていた、漫画が描かれたポールの古いシャツで、ドアベルに答えた。

そこには軍服の空軍将校と背広の年配の男が立っていた。

映画でそのような場面を何度も見ていた彼女は、一目で何が起きたか、すぐ悟った。

彼らを中に招じ入れた。

将校がポールの死を伝え、原因は追って知らせる、と言った。

信じられぬ彼女は夢うつつでそれを聞いていた。

ポールは水曜日に死んだとのことであったが、実は、その前の土曜日の朝、彼は瑤子に電話をかけてきていたのだ。

生憎彼女は階下の洗濯場に行っていて、留守電に、またかける、という彼の伝言が残されていた。

電話は永久にかかってこなかった。留守電の彼の声はいまだに瑤子の耳にハッキリ聞こえる。

日本人と交流の多かった瑤子は、留守電のテープにも日本語で、伝言を頼みます、と言っていた。

彼は日本語のテープをどう思って聞いただろう。瑤子は堪らなかった。

電話で知らせた二人の息子たちはすぐ来て、どうしてポールが死んだのか、知りたがった。

フィリップがドイツの基地まで電話したが、らちが明かなかった。

ほかに何をすればよいのか知らなかった瑤子は、親類や友達に電話してポールの死を知らせた。

グリーソンと頼子は電話でことの次第を聞きたがった。

まだ何も解らず、ただポールが窒息死したことだけは解っている、と瑤子は泣きながら伝えた。

彼は葬式には出ず、それが終った頃そちらに行く、と言った。

棺に入ったポールの遺体が届けられた。

葬儀屋の祭壇に置かれた空軍の立派な柩の中の彼は、すっかり面変わりしていて、兄たちも目を疑うほどであった。

遺体を処理したドイツの葬儀屋が、わざとふざけてしたのかと思えるほど、彼の短い髪はキューピーのように三角に立てられ、彼を滑稽にさえ見せていた。瑤子は、髪を撫でてねかせようとしたが、スプレイで固められた髪はビクともしなかった。

堪らなくなった彼女は棺の蓋を閉めて、誰にも見せぬようにした。

空虚な心の瑤子にお構いなく海軍の儀礼的な葬式が終わった。

未熟な海軍の牧師はポールの名前を間違って唱えた。