Mrs Reikoの長編小説                             

             慟哭 再びカリフォルニア州 14

葬儀の後二週間ほどしたある日、頼子が電話で、夫がそちらに行く、と言ってるが、早々に追い帰してやって、と言った。

彼にはとても会いたかったが、彼女は今、子供たちを数人教えていて、親たちにも尊敬されている立場であり、知人も度々マンションに訪ねて来る身であった。

そこへ夫でない男を泊める、ということは、子供たちや知人の思惑はもちろん、マンション内の評判も煩くなる、と思うと、アンディがいた頃のように、気安く彼を泊めることはできなかった。

瑤子は近くのモーテルに、彼の滞在期間中の予約を取った。

その日、空港に迎えに行くと、南部の白人がよく被るパナマ帽を被ったグリーソンは、少し場違いな感じを与えたが、瑤子はためらわず彼を抱擁した。

彼女はモーテルに彼を連れて行き、彼を自宅に泊められぬ理由を説明した。「人は君を神様みたいに思っているんだナ」と彼は笑って納得した。

瑤子はモーテルから仕事に通った。

彼と一緒に居る間は心の痛みを忘れる事ができ、安らかさを取り戻した。

彼は一人でいても退屈するようすもなく、散歩をしたり、モーテルのプールに入って泳いだりしていた。仕事から帰ってきた瑤子もプールに入り、久しぶりに泳いだ。

瑤子は落ち着いて彼のために食事を作る気にもなれぬ心境であったので、あちこちのレストランを利用した。

サンディエゴ軍港を見下ろす丘の上の軍人墓地のアンディとポールの墓にも案内した。

メキシコ戦争以来の死者の墓を擁する膨大な土地で、彼女は何度行っても彼らの墓を探しあぐね、やっと見つけた墓の前で泣きながらポールの墓に花を供えると、彼も声を上げて泣き、花束に結んであった赤いリボンを呉れ、と言ってポケットに納めた。

幼かったポールは、内気な彼に似合わず彼に懐いていて、よく彼に話しかけ、グリーソンも親身に可愛がっていた。

彼はポールの死因を聞きたがったが、いまだにそのリポートを空軍から待つ身の瑤子は、来たら話す、と言った。

リポートが遅れていることは、彼の死因が謎に包まれている意味で、それを察した彼女は、死んだことだけはハッキリしている彼の最期の様子を、あまり知りたくなかった。

十日後、予約してあった飛行機で帰るグリーソンを飛行場まで送って行った瑤子に、「人は長逗留の客を送り出す時はホットするものだ」、と言って笑った。

来てくれたことで、どんなに救われたか知れない、と言った彼女に強烈なキスを残して、彼は機上の人となった。