Mrs Reikoの長編小説                             

     オリンピック 再びカリフォルニア州 20

 久しぶりに、ヴァージニアにいるエミィに会いに行こうと思い立った。

三月というのに、ヴァージニアのノーフォークでは霙が降っていた。

エミイはアートという、瑤子がカリフォルニアで最後に話した男とまだ一緒に住んでいた。

コンクリートのアパートに住む彼らを訪ね、付近のモーテルに泊まった彼女は、その夜のうちに車上に降った雪と霙が硬く凍りつき、ドアが開けられぬ事を翌朝発見した。

アパートから見送りに来たアートとエミイに、どこかで湯をもらえないだろうか、と聞くと、アートは、湯などかけたら、ガラスが割れてしまうと言って、酢を入れた水を持ってきて氷を溶かしてくれた。

安定した生活をしているらしいエミイを見て安心した瑤子は、安らかな気持ちでヴァージニアを後にした。

また前のように、グリーソンと狩に行く傍ら、ボランテヤの支度で、充実した生

活が続いた。

月夜の野山を歩き廻る瑤子とグリーソンには、しみじみ話をする機会がいくらでも

あった。

ショットガンを町なかで振り廻し、好き放題に生きてきた彼も七十歳を過ぎ、死後のことを思う事もあったのか、「俺は天国には行けないな」と、漏らした。

彼が日本や朝鮮の戦争孤児のために、いろいろ尽くしてきたのを知っていた瑤子は

「あんたは、さんざん女を泣かせてきたけど、善い事もいっぱいしてきたからきっと神様に愛されているはずだ」と言うと「そうかな」と言って笑った。

その間にも、オリンピックの準備は着々と進められ、1996年の6月末、制服を支給するのでアトランタまで取りに来るよう、通知が来た。

年寄りのスタッフが大勢いる制服支給所で、ショートパンツを受け取り、他にもオリンピックのロゴ入りのシャツ、時計、水筒やノートブックを、横柄な態度の白人の老婆たちから与えられて瑤子は帰ってきた。

ボランテヤというのは、土地の有力者で編成され、瑤子のような、よそ者は普段採用されない、ということが瑤子にもだんだん解ってきたが、外国語だけは彼らに歯が立たず、仕方なしに彼女らを採用したようであった。