Mrs Reikoの長編小説    サンタ アナの風

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 マブリックのドアを開けて真紀を運転席の横に座らせた佳恵は「コロナド橋を通っていく方が近いようだから」と車をバルム アベニューで左折させ両側に海が見えるシルヴァーストランド ブルーヴァードを飛ばした

右に見える奥行きの深いサン ディエゴ湾は湖のように穏やかで灰色に塗られた軍艦や白い帆のヨットが多数見え一幅の絵のようだ。

左側の太平洋は今日は波が荒く泳いでいる人は見当たらない。

細い紐のような陸地を十五分程ドライヴして行き着くコロナド市は世界中の金持ち達が集まっている街として有名でヨットハーバーやゴルフコースなどが趣向を凝らして建てられた大きな家々を取り囲むように点在する。

スペインの古城のようなとんがった赤い屋根の広大なコロナドホテルの前で右に曲がりしばらく行くと、弓のように大きく左方に湾曲した青いコロナド橋が中空に浮かんだように見えてきた。

三キロもあるかと思われる長い橋は真ん中辺りに「ここよりサン ディエゴ市内」と書かれた札が立てられてある。

四番街のA通りにある立派な住友銀行前に車を止め佳恵が中に入って金を下ろしている間これから起こり得る様々な事を想像して真紀は落ち着かなかった。

茶色の紙包みを手にして出てきた佳恵は「全部二十ドル札で呉れと言ったら銀行の人、変な顔をしていたわ」と言いながら運転席に座った。

クロスビー通りは来る時通ってきた橋の真下にあってメキシコ人の多い所だ。

橋を支える巨大な柱の数多くにはキリストやマリアの顔、花や鳥などが原色で一面に描かれている。

ちょっとした公園になっているその地域には「グリンゴ ステイ アウト(白人め、入ってくるな)」と、ペンキでなぐり書きされ、長い間白人達に差別され、利用されてきたと信じるメキシコ人達の憤りが表されている。

小さな家や商店がごたごたと並ぶ通りを西に行き、海の近くの大きな缶詰工場や、倉庫が建ち並ぶ間にちょっとした空地があり、その中にぽつんと一軒だけペンキの剥げた家があった。家の脇にようやく読めるような字で二三七と書いてあるのを二人は見つけた

短い木の柵で囲まれた小さな庭にはぼろ布や紙屑が散らばり、芝生も枯れつくして一目で空家であることが知れる。

近づいて見るとドア脇の郵便受けに白い紙切れが洗濯バサミで止めてある。

ミセス ガーナーと書いてあるので、佳恵が取って開いてみると「ミセス ガーナー、中に入って待つように」と書いてある。

そうっとドアを開けて見るとがらんとした部屋に、茶色のソフアが一つぽつんと置いてある。

窓のブラインドはみな閉められて薄暗い室内は静まり返っている。

ドアを開け放したまま真紀たちはソフアにそっと腰を下ろした。