Mrs Reikoの長編小説    サンタ アナの風

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一分二分と緊張した時が過ぎても何事も起こらず、二人はふうっと大きく息をついた。

「直ぐには出てこないのかもしれないわね」

真紀が先ず口を開いた。

「ポリスが後ろの方で見ているかと思って慎重にしているのでしょう」と佳恵も緊張した表情で答えた。

 暑い部屋の中の重苦しい沈黙に耐えられず「どうしてジョージはアナポリスから帰ってきたの?」と真紀が話しかけた。

「詳しい事は言わないので、解らないのだけれど、結局はあそこの環境に馴染めなかったのでしょう。彼自身どこの世界にも、又どこの学校にも属することが出来ないと感じたらしいのよ、私やあなたの子供達は生まれてこのかた一定の社会とか、団体に属したことが無かったでしょ。例えば日曜日には白人でも、黒人でも大抵それぞれの教会に行くでしょう教会に行かない人達でも、イタリヤ系の人達はイタリヤ系の人たちと、又はユダヤ系はユダヤ系なりにお祭りとか行事を集まってするわね。アナポリスのような学校でもそれは続けられて、何かに属してない子は仲間外れになるらしいの。

前から私気が付いていたんだけど、母親が日本人というジョージのような子供達は日系という集団を避けるような気配があるのよ。

むしろ日本人との関係を絶ちきろうと願っているようなところがあるの。彼らがどのくらい意識しているかは解んないけど、これは日本人の母親に対する一種の人種差別じゃないかと思うのよ。あなたどう思う?」

「そういう事もあり得るわね」

自分たちの娘や息子達の思春期だからとばかり言ってられなかった烈しい反抗の時期を思い出して寂しく認めた。

「とにかく勉強だけにエネルギーを集中していたらしいんだけど、やがて成績の良いことがが反って他の者の反感をかう原因だと言う事に気が付いたのよ」

「可哀そうに」

「でも、世の中にはもっと可哀そうな子供達が沢山居るわ、あの子は昔から神経が繊細過ぎるところがあったの。このアメリカって所は神経が太くなければ生きていけない所なのよ」佳恵は自分に言い聞かせるように言ってふっと溜息をついた。

閉め切られた家の中は次第に暑くなってきて、二人はげんなりして話しをする気力もなくなり、ぼーとして座り込んでいた。