Mrs Reikoの長編小説    サンタ アナの風

20

 十メートル程歩いた頃砂山の陰から二人の大男が突然踊りだすように前に立ちはだかった。

「ストップ ライツ ゼア(そこで止まれ)」と、ピストルを突きつけて命令した。

棒立ちになった三人に近づいて来たボーダーパトロールは厳しい顔つきで「お前たちは何処から来た?」と尋問した。

「私の名はミセス カミングス こちらはミセスガーナーとその息子ジョージ ガーナーです。私達はみんなU、S、シイティズン(米国市民)です」

と真紀が最初に口を利いた。「ジョージ S ガーナー?」とパトロールがジョージの顔を懐中電灯で照らしながら聞くのに、眩しそうに瞬きをしながら「イエス」と答える。

「お前には逮捕状が出てる」とパトロールは後ろに廻ってジョージの身体を探り武器の有無を調べた後、後手に手錠をかけた。

横で佳恵が、うっと低く呻き顔を逸らした。

 もう一人のパトロールが近寄って来て佳恵と真紀に「身分証明書は持っているか?」と聞くのに、二人はそれぞれのハンドバックからパスポートを出して見せた。

そういえばホセは二人のハンドバックの中身も見ず少し入っていた金もそのままになっていた。

事情は本部に行ってからと言うことで二人のパトロールにはさまれた三人は彼らの車の置いてある丘の上の広い展望台に向かって歩き出した。

三人は申し合わせたように今脱出してきたメキシコの方を見やった。

白々と夜が明け始め闘牛場やティファナの丘が薄明の中に黒いシルエットとなって浮かび上がっている。

先刻までの事が夢のように思われる程平和で静まりかえった表情を見せている。

 急に着ているシャツが吹き出す汗で肌につくのが気になり「この暑さどうでしょう。どうして今日は海からの風がないのかしら、この熱気まるで砂漠のよう」

と坂道を登りながら多紀が喘ぎながら言うのに、

「サンタ アナ ウインドなのよ」と佳恵が嘆息するように空を仰ぎ見ながら応じた。

                  完