Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁                                           

             共同生活 ニュージャージー州 2

瑤子は彼らと一緒の家に住むということさえ知らなかった。

メソメソ泣いてばかりいるジョージと、やたら歩き回って悪戯するエミイ、それに

ロバートの世話で瑤子はクタクタになった。

ロバートは手のかからぬ子であったが、ようやく二才になったばかりなので、やはり目が離せなかった。

エミイがガスのオーヴンのボタンを捻ったのを瑤子が気付かずにいたら、いきなりボーンと音がして、一メートル四方のオーヴンのドアが吹き飛んだ。

幸い側に誰もいなかったのでケガ人はなかったが、彼女は後で思っても背筋が寒くなった。

四、五日して、節子が男の赤ん坊を連れて病院から帰ってきた。

しかし出血が酷く、翌日その赤子もおいて再入院した。

ジョーンズはどこに泊まったのか帰って来なかったので、瑤子は四人の子供たちを昼夜世話することになった。

ジョージがまだクリブを使っていたので、節子は赤子をバシネット(防水布製ベビー用バスタブ)の上のピンと張られたカヴァーの上に寝かせていた。

彼女が再入院した二日後の夜、ようやく子供たちを全部寝かしつけた瑤子がベッドで本を読んでいると、ドンと鈍い音がして、赤子がギャッと泣き出した。

飛んで行ってみると、驚いたことに、生後十日足らずの赤子が床の上で泣いていた。

長さ八十センチ、巾五十センチほどのカヴァーの真ん中にうつぶせに寝かせられていた赤子は、クネクネと体を動かしているうちに、高さ一メートル半ほどのバシネットから落ちたのだ。

その頃、アメリカでは赤子の頭の形を良く保つために、うつぶせに寝かせることが普通であった。

驚いた瑤子は赤子を抱き上げて体を調べたが、不思議に傷も無いようなので安堵の胸を撫で下ろし、ジョーンズが帰ってきて寝るもの、と思っていたダブルベッドの真ん中にその子を置いた。

赤子はすぐ泣き止んでスヤスヤ寝入ったが、瑤子はそれからオムツを替えるたびに、赤子の全身を何度も調べた。

打ち身の症状も見られず安心したが、いつも気をつけてバシネットの真ん中に寝かせておいた

別に泣いてもいなかった赤ん坊が、あんな風に落ちるとはどうしても信じられず、長い間無人であったその大きな家に幽霊でもいるのか、と薄気味悪く思った。

もしあの時赤子の首の骨でも折れていたら、どんな弁解も成り立たず、自分は一生刑務所入りだった、と思うたび、瑤子は身震いした