Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁

             再びコロラド州 1

アンディは、フォートカールソンには戻らず、デンヴァーのフィツモンズという大きな陸軍病院に、本格的な看護兵の資格を取るため、配属になった。

一年講習を受ければ特別手当も出るという、相当難しい勉強に取り組むことになったのだ。

その期間は、どのような場合でも休暇は取れぬ、という厳しい規則であった。

デンヴァー近くの町、オーロラ郊外の、野原に二軒並べて同じ型に建てられた家の一軒を借りた。

庭は広くフェンスで囲まれていたが芝生などはなく、赤土の片隅に雑草がしょぼしょぼ生えている程度であった。

隣の家には両親と小さな女の子二人が住んでいた。

満三歳のフィリップがよくその家に遊びに行くようになり、瑤子も母親と口をきくようになっていたある日のこと、その家から帰ってきた彼は、腹が立ったので隣のドライヴウエイにウンチをしてきてやった、と誇らしげに瑤子に告げた。

驚いて瑤子が行ってみると、それは本当だった。

紙を持って拭き取って来た瑤子は、家に入るなりフィリップのお尻を激しく叩いた。

満一歳にもならぬうちに喋るようになった小利口なフィリップは、時々瑤子の度肝

を抜くようなことをしでかした。

その頃、瑤子は子供たちのお尻をよく叩くようになっていた。

なんといっても一番叩かれたのはエミイであったが、もう一年生の娘は手で叩かれても大して怯まぬようになっていた。

自分の手首ばかり痛くなることに業を煮やした瑤子は、アメリカ人に倣ってベルトを使うことにした。

子供は叩かなければ良く育たない、と真剣に考えていた当時のアメリカ人の中で、ベルトでのスパンキング(尻叩き)は普通であった。

子供が罰を受けるべきだ、と思うと、彼女はまず、この次、したらスパンキングだと、宣言した。

そして、子供が二度目に敢えてそれをした時、彼女は尻を叩いた。

一日中愚痴を言い続ける癖のあった自分の母親のお陰で、瑤子は子供が生まれても愚痴は決して言うまいと決めていたので、だらだら小言を言うことはなかった。

エミイの他三人は心得ていて、あまり叩かれるようなことをしなかった。

しかし、いくら言い聞かせても叩いても、言うことを聞かぬエミイは相変わらずで、店に連れて行けばそこで泣き喚き、ロバートと玩具の取り合いをしては、喧しく騒ぎ立てた。

その喚き声を聞くのが嫌で、瑤子はついロバートにいつも譲らせていた。

病院には懲り懲りの瑤子は、四人目の時は産月の一月前まで医者の診断を受けなかった。

しかし、あまり突然お産のために病院に行くと、医者も困るであろうか、と三月のある日病院に行くと、無愛想な医者が、「なぜもっと早く来なかった、」と言った。

もう三人も生んでいるので様子が解っていたから、と答えた瑤子に、彼は呆れ顔でビタミン剤をくれた。