Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁

              再びコロラド州 2

五月ニ日の早朝、普段のように身支度したアンディは、産気付いた瑤子と三人の子供たちを車に乗せて病院と託児所に向かった。

産室に一人入れられた瑤子に、「今、痛みは何分おきか、」と医者がちょいちょい部屋に来て尋ねた。

目前の壁に大きな時計がかかってはいるものの、痛みのため瑤子は時間を計るのも煩わしく、良い加減に答えているうちに破水し、分娩室に運ばれる暇もなく、男の子を産み落とした。

ポールと名付けられたその子は分娩室で生まれなかった、というだけの理由で、洗濯物置き場の小さな部屋に入れられた。

清潔な院内とはいえ、たくさんの使用済みのシーツや枕カヴァーが袋に詰められてあるその部屋に、瑤子は時間ごとに入って行って、ポールに牛乳を与えたが、罪もない子に対する病院の処置に腹が立った。

同じ病院で講習を受けていたため、毎日訪ねて来たアンディが何も言わなかったので、瑤子も黙っていたが、将校でもない一兵卒の家族の悲哀をひしひしと感じた。

その病棟の新患の受け付けをする看護婦が、ある日、日本人妻の通訳をしてくれと、瑤子に頼みに来た。

比較的若くしてアメリカ人の中に出たせいか、瑤子は割合滑らかに彼らと会話ができるようになっていた。

通訳を終わって、看護婦に感謝され、女学校を中退したことがコンプレックスとなっていた瑤子は、嬉しかった。

彼女は長いこと学校の夢ばかり見ていたが、いつも昔の友達がみな楽しそうにしていて、瑤子だけが取り残される、という悲しい夢であった。