Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁     

 障害児の娘 ジョージア州 7

知能が遅れている子供たちを集めたその教室では、子供たちがそれぞれ勝手に教室内を歩き回ったり、ティシュで花を作ったり、レコードを鳴らしたりして、纏まりがなく、これではただのベビーシッターだ、と瑤子は不満であった。

瑤子の望みでは、せめてエミイが手に職をつけ、将来独り立ちできるように教育してもらいたかったのだ

彼女は、ただ坐って子供たちを好きにさせている、特別教室教師として、普通より高給を取っている女教師を良く思わなかった。

そんなある日、警察から電話で、エミイがバスを待っている間に、付近の店先からコカコーラの壜六本入りケースを、友達といっしょに盗んだ、と告げられた。

早速エミイをその店に連れて行って謝らせ、弁償するから、と瑤子も謝った。

店の主人は、謝りに来るとは立派なレディだ、と瑤子を褒め、金は払わなくとも良い、と言ってくれた。

あんな教師のいる教室にわざわざ行くことはない、とそれまで盗みだけはしなかったエミイがもっと悪くなることを恐れて、瑤子はそれからエミイを学校にいかせなかった。

四、五日してから、校長だという男から電話があり、子供をなぜ学校に寄こさない、と居丈高に電話口で怒鳴った。

盗みの件を話し、無能な教師のいる学校にやっていても、悪いことばかり覚えるようだから、と答えた瑤子に、校長は、「英語が良くできるね、」と世辞を言い、子供を学校に出さぬと法律に反するから、と前より穏やかな口調で説いた。

フィリップとポールがまだ家にいたので、エミイがいると煩くてかなわなかった瑤子は、翌日から彼女を学校に出すことを約束した。

アメリカで流行っているホーム スクーリングなど、聞いたこともない頃である。

五歳になった、小利巧なフィリップは、彼なりに次々とトラブルを起こした。

愛嬌が良く、おしゃまな彼は、近所の人気者であった。

ある日、親しくなった郵便配達夫が郵便を呉れなかった、と腹を立て、追いかけて行って彼の脚を叩いた。

怒った配達夫は後ろを向いていきなり彼のお尻を叩いた。

泣きながら帰って来た彼に事情を聞いた瑤子は、次の日、彼を配達夫に謝らせた。

“僕たちまた友達だよね、”と配達夫が言った、とフィリップは満足そうに瑤子に告げた。

その他にも、石を投げて向かいの店のガラスを割ったり、四メートルほど上のツリーハウスから落ちたり、お小使いをもらった直後、向かいの店に駆けて行って車にぶつかりそうになったり、なにかと瑤子をハラハラさせた。

その後、ロバートが一つ年上のジミイに叩かれた、とチョイチョイ瑤子に告げるようになった。

どうせ子供の喧嘩と、高を括っていた瑤子だが、あまりにも頻繁にあるので、とうとう堪り兼ねて、ある日、そこに丁度居合わせたジミイとロバートに、そんなに喧嘩がしたければ、一つここでやってみろ、と二人を家の前のポーチに上げて言い渡した。

最初はニヤニヤ笑っていたジミイは、一度殴りあいが始まると、年下でも体は同じくらいのロバートに負け気味になり、しまいにはベソをかき始めたので、もう良いだろう、と瑤子は止めさせた。

これはずっと後で聞いたことであるが、ロバートはその頃相当酷いイジメに合っていて、ジミイとその友達に叩かれたり、泥を食べさせられたりしていた、ということであったが、ポーチの格闘以来、イジメはピタリと止んだ、とのことである。