Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                          

      同情的転勤 カリフォルニア州 3

 

 ある日元気一杯のロバートが、突然の嘔吐と熱のため入院した。

盲腸と診断され手術を受けたが、すでに化膿していたので、三週間ほど抗生物質を受けながら入院しなければならなかった。

入院中、仕事から帰って夕飯の支度をしていた瑤子に、病院の看護婦から電話があった。

彼女はアンディが留守だと知ると、「彼に話しがあったものだから」、とだけ言って電話を切った。

ロバートになにか起こったのか、と彼女はじりじりしてアンディの帰りを待った。

帰って来た彼が電話をした看護婦は、ロバートがとても良い子なのでプレゼントをしたくて、なにが良いか、聞きたかったのだ、と言った。

アンディは、彼女の電話のために瑤子がとても心配していた、と珍しく怒りを現し苦情を言った。

プレゼントの話しくらいだったら瑤子でも解ったのに、といつも半人前扱いされる“東洋人”の彼女は口惜しかった。

退院したロバートはすっかり体力を失い、それまでやっていたフットボールが出来なくなり、そのイライラを瑤子にぶつける事が多くなった。

ロバートの行っていた高校は、その頃ドラッグが盛んで、校庭で生徒が殺される、などという物騒な事件まで起っていた。

時は1970年代で、ヒッピーくずれの若者たちがヴェトナム戦争反対を叫ぶ中、爆発的人気のビートルズの音楽を背景に、青少年の“既成社会秩序”への反抗が著しい時であった。

瑤子は働きながら夜、ロバートと同じ高校に通って、GEDという高校卒業資格を取り、続けてモンテレイ大学の夜間部に通い、英語やコンピューターの初歩のクラスで勉強した。

その頃のコンピューターは大きく、十畳間くらいの部屋にびっしり置かれた各種の機械で生徒は勉強した。

反戦運動や青少年の反抗が最高に激しかった時代の中、彼女が行っていた大学の学長が学生に椅子で殴られる、という事件も起こった。

事が大きくなることを恐れた学長は起訴もせず、ウヤムヤにしたが、サンフランシスコの州立大学の早川学長は、大騒ぎする学生たちのトラックに乗り込んで、マイクロフォンを引き倒す、という英雄的なことをして、大人たちを大いに感心させた。

スタインベックの誕生地、サリナスの町外れの崖地は、広大な野菜畑の向こうに町も見渡せるという、眺めだけは素晴らしい所であった。

基地のすぐ近くに四エーカーばかりの崖地を見つけて買ったアンディが、家を建てる、と言い出した