Mrs Reikoの長編小説                             

           残照   再びカリフォルニア州 16

 

悲しみを忘れようと瑤子は今まで以上に仕事に打ち込んだ。

シャープという病院に専属して、翻訳兼通訳をすることになった。

ポケベルを持たされ、必要に応じて五軒の分院を車で廻って通訳を勤め、本院のオフイスでも事務を取ったり翻訳をしたりする仕事は、給料も良く、興味ある仕事であった。

日本の商社マンたちが契約している払いの良い保険を狙って、必要もない治療を彼らに受けさせる病院の有ることを知って彼女の正義感を刺激した。

ある妊婦は予定日の一週間前に、帝王切開をするから入院しろ、と理由も言わぬ医者にいきなり指示され、驚愕していた。

毎回瑤子が付き添ってその医者に通っていた。

既に一子のいるその妊婦は、帝王切開をしなければならぬ理由など一度も言われておらず、どうして良いか解らずおろおろしていた。

不妊で悩む女性に付き添って、医者との会話を通訳していた時、セックスはどれくらい頻繁に行うのか、と医者が真面目な顔をして聞いた。

「月一回、体温が上がった時に」との女性の答えに、瑤子の抑えようとした笑いがついこみ上げて来た。

医者も笑いながら、「もっと頻繁に行わなければ駄目だ」と言った。

セックスが子どもを作るためだけのもの、と思い込んでいるような若い女性が居る事に瑤子は驚いた。

若い母親たちは、ちょっとした風邪でもすぐ子供を病院に連れて来た。

小児科医はいつでも診察した後、必ず、“タイレノール(熱さまし)をのませろ、”と言った。

彼女が四年間家庭教師で教えた子供達はすでに普通のクラスで勉強できるようになっていた。

家庭教師の仕事を止める事にした。

アンディの未亡人としての社会保障年金も出始めたのでそれと一緒に通訳の仕事も止める事にした。