Mrs Reikoの長編小説                             

         残照   再びカリフォルニア州 18

その晩瑤子は、懐中電灯を持って、彼とラクーン狩に行った。

大分耳の遠くなった彼は、瑤子に犬がどの方角で吠えているか、聞いた。

その後、彼女は聞かれなくても、鳴き声の方角に黙って懐中電灯を向けるようになった。

そして、彼がラクーンを木の上に見つけると、目の衰えた彼に代わり、彼女がライフルを撃った。

懐中電灯に反射する、枝葉の蔭のラクーンの赤い目を見つけることは、さすがに彼の方が優れていたが、射撃は今では瑤子の方が上手のようであった。

上を向いて吠えまくる仔牛ほどもある猟犬たちは、弾が当ったラクーンが落ちてくると、ワッと獲物をめがけて走り寄り奪い合った。

彼が声をかけると、訓練された犬たちは直ぐ獲物を放しサッと後ろに引くのは見ていても気持ちが良かった。

目や耳の衰退に苛立つ彼は、癇癪がますます強くなったようで、瑤子が高い葉陰のラクーンを見つけかねていると、出ない声を無理に張り上げて、「見えたか、見えたか、」と続けざまに怒鳴るようになった。

腹を立てた彼女は、もう狩には行かない、と何度言ったか知れなかった。

それでも、翌日またやって来た彼に謝られ、また誘われて行く、ということを繰り返した。

頼子が言うには、彼女が来る少し前、行きつけのガソリンスタンドで、新しいポンプの使い方にマゴマゴしていた彼は、使用人の若い男にバカにされたと思って、殺してやる、とトラックからショットガンを持ち出し脅した、とのことであった。

裁判になりそうになったが、狩猟仲間が間に入り大事にならずに落着したと言う。

黒人に対しての差別が全米で最も烈しいミシシッピーで育った彼は、いまだに黒人を“二ガー”と呼び、軽蔑していた。

日夜聖書を手放さなかったという、信心深い母親に、“黒人は白人の召使になるため、神様が創られた、”と教えられたという。

ケンの食事の世話は続けていたが、ケンは慣れるに従い、「いつカーペットに掃除機をかけるのか」とか、まるで家政婦のように瑤子を扱い出した。