Mrs Reikoの長編小説    サンタ アナの風

16

 ドアの外に人の気配を感じハっとしてそちらを見るとあまり背の高くない男が戸口に立っていた。

「金はもってきたか?」と、短く鋭い声で聞くのに、「イエス」と答えると、「来い」

と言って先に外に出る。

外はいつの間にか夕闇がせまって周りの家や工場の灯りがぽつぽつと点きはじめている。

手ぶりで佳恵の車に乗るようにと合図する。

佳恵が運転席に座り、真紀がその横に座ろうとすると、男は「ノー」と低く制して後ろのシートに座るようにと、手で示す。

男自身が佳恵の側に座り、外に向かって「マニエル」と低く叫ぶと何処からともなくひとりの男が蜘蛛のようにすり寄ってきてさっとドアを開けて真紀の横に座った。

真紀の方は見ず真っ直ぐ前を向いたままの男はまだ二十歳前後の若い男であった。

「ジョージは?ジョージは何処?」佳恵が男に叫ぶように問い詰めると、「シッ」と手で制して「これから連れて行く、車を早くスタートさせろ」「どこへ行くの?」

と佳恵はなおも男に食い下がるが、男は、早くしろ」と急き立て「五号線に出て南に向けて走らせろ」と命じる。

クロスビー通りから五号線に入るのはややこしく、佳恵の隣りに座った男が交差点に来る度に右、左とか指図するが、男もあまり詳しくはないらしく何回か行ったり来たりしながらようやく五号線に入った。

「私たち喉がからからなんだけど、何か飲み物買わせてよ」と断られるのを覚悟で真紀は男に頼むと、

「そこに入れ」と、思いがけない言葉が返ってきた。

黄色いアーチを揚げたマクドナルドに入り、真紀が降りてコカコーラとハンバーグを二つづつ買った。

喉がたまらなく渇いていた真紀たちはコカコーラをあっと言う間に飲み干した。

万が一のためと思って買ったハンバーガーは真紀のバックに納めた。

サンディエゴの町を出てナショナル シテイやチュラ ビスタも過ぎ、イムペリアルビーチも後にした時真紀たちは嫌でも国境を越えてメキシコ国内に連れて行かれる事を知り恐怖がつのる。

 男たちはスペイン語で二言 三言やりとりをした後はものを言わなかった。

前に座った男もマニエルと同じ位にまだ若くホセと言う名であることが解った。

外は夜だというのに、空気が乾いて熱気がこもっていた。

ボーダーで簡単に通され「何処に?」と聞く佳恵に「闘牛場の方だ」とホセは短く答えた。