2023-01-01から1年間の記事一覧

Mrs Reikoの長編小説                             

慟哭 再びカリフォルニア州 15 空軍からポールの死因のリポートが届いた。 それによると、彼は自分の部屋で縊死したようであった。 調査が長引いたのは遺書も無いため、自殺と断定するのに時間がかかったようであった。 彼の周辺を徹底的に調査した上でのリ…

Mrs Reikoの長編小説                             

慟哭 再びカリフォルニア州 14 葬儀の後二週間ほどしたある日、頼子が電話で、夫がそちらに行く、と言ってるが、早々に追い帰してやって、と言った。 彼にはとても会いたかったが、彼女は今、子供たちを数人教えていて、親たちにも尊敬されている立場であり…

Mrs Reikoの長編小説                             

慟哭 再びカリフォルニア州 13 六月の一四日に、ポールが死んだ。 後二ヶ月ほどでドイツから帰国する予定であった彼が事故で死んだ、と空軍は説明した。 その朝、瑤子はいつものように体操をするつもりで着ていた、漫画が描かれたポールの古いシャツで、ドア…

Mrs Reikoの長編小説                             

自立 再びカリフォルニア州 12 卒業直後、身の振り方を考える暇も無く、サンディエゴ界隈に住む、日本人商社マンの家庭から英語の家庭教師を頼まれ、瑤子は忙しく働きだした。 他の仕事よりずっと良い環境で、収入も申し分なかった。彼女のカレンダーはいつ…

Mrs Reikoの長編小説                    

邂逅 再びカリフォルニア州 11 休暇を終えて家に帰った瑤子は少ない収入を補うため、たまに行く寿司屋の若い日本人板前に部屋を貸した。 頼子に電話で下宿人の話しをした後、彼女はすぐ夫に伝えたものとみえ、彼の電話の態度が途端に素っ気なくなった 彼の嫉…

Mrs Reikoの長編小説                    

邂逅 再びカリフォルニア州 10 大学は後一年ほどの辛抱であった。 膨大な数の生徒の中、彼女は駐車のスペース獲得のため、ほとんど毎朝七時に家を出て車を渋滞の流れに乗り入れた。 駐車場に着いた後クラスが始まる時間まで、彼女は車内で勉強した。 ほとん…

Mrs Reikoの長編小説                    

邂逅 再びカリフォルニア州 9 牛を飼っている農場を見せる、と言って彼は瑤子を促した。 農場はそこから二十分ほどのまだ田舎にあった。 彼は鎖で閉められた大きなゲートを開けてトラックを乗り入れ、降りてまたゲートに鎖をかけた。 ブラックアンガス牛の群…

Mrs Reikoの長編小説                    

邂逅 再びカリフォルニア州 8 狐狩りを止めたグリーソンは、その頃、ラクーン(アライグマ)を捕っていた。 ラクーン狩は夜、犬を放ってそれを探させ、木に登ったラクーンを、下から懐中電灯で照らして、赤く光る目を狙って撃つもので、十メートルほども上か…

Mrs Reikoの長編小説                    

邂逅 再びカリフォルニア州 7 頼子が出た。懐かしい彼女の声を聞いて瑤子は涙ぐんだ。 彼女はすぐ、アンディが死んだでしょう、と言ったので驚いた瑤子は、どうしてそれを、と訝った。 ずっと前、オハラ家の消息を聞きに行った夫に、彼らの家を管理していた…

Mrs Reikoの長編小説                     

邂逅 再びカリフォルニア州 6 子供達の事を考えると、生きるしかない、と決心した。 その為には歯を食いしばってでも大学を卒業しようと思った。 彼女は既に四年制のサンディエゴ州立大学に願書を出して受領され、九月からそこへ行くことになっていた。 五十…

Mrs Reikoの長編小説                     

永遠の別れ 再びカリフォルニア州 5 近くに住んでいたロバートは、オークランドのエミイに飛行機代を送って、葬式に来られるようにした。 朝鮮にいたポールには軍の方から知らせが行き、緊急休暇で二日後に帰って来た。 生まれた時からバプテスト教会に属し…

Mrs Reikoの長編小説                     

永遠の別れ 再びカリフォルニア州 4 一人になったら日本に帰ろう、と瑤子は決めた。 実家にはまだ母親と弟、孝が住んでいた。 日本に帰って英語を教えよう、と決めた彼女は大学卒業の資格を取るため、まず近くの短大の英文学や哲学のクラスに席を置き、学校…

Mrs Reikoの長編小説                     

永遠の別れ 再びカリフォルニア州 3 清潔好きなアンディは、何か臭いものを嗅ぐと、すぐ、ガーッ、ぺッと、唾を吐く癖があり、瑤子は前から気になっていたが、なにも言わなかった。 運転中、イタチの匂いがすると言って、彼はすぐ窓を開けて唾を吐いた。 早…

   Mrs Reikoの長編小説                     

再びカリフォルニア州 2 友達のいない瑤子は、沖縄で再会した後、文通をしていた、当時テネシーに住む 博美に勧められるまま、新興宗教の会合にアンディと出席した。 多くの信者が親切にしてくれたが、瑤子の性質はその宗教に合いそうになかった。 沖縄で勧…

    Mrs Reikoの長編小説                     

再びカリフォルニア州1 サンディエゴでは、相変わらず機転の利くフィリップが、二.三軒借家を探しておいてくれた。 瑤子はその中から一軒、海岸まで十分ほどの小さな二LDKを借りた。 大きな棕櫚の木が立ち並ぶ海岸への沿道には、赤や黄のハィビスカスが…

Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                        

アンディの故郷 ヴァージニア州 11 驚いた親類達には、彼女のアレルギーのためにも、海辺のサンディゴの方が良さそうだから、と彼は説明した。 アンディは役場の許可を取り、休暇で来ていたポールに手伝わせて、一日だけのガレージセールを開いた。 日本から…

Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                        

アンディの故郷 ヴァージニア州 10 エミイが男を連れて帰って来た。 カーニヴァルを転々とするその男は口が達者で、近くからの電話で、トクトクと、「お宅の娘さんを連れて参りました」とアンディに言ったそうだ。 アンディが言われた場所に迎えに行くと、そ…

Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                        

アンディの故郷 ヴァージニア州 9 農業国ヴァージニアでは、農家の豚が時々柵外に出て野生化し、それらが子豚をなし、その群が野山を駆け巡って、畑の作物に被害をもたらすことが度々あった。 そのような豚の群れが、小川の岸辺で野生の三つ葉を食べているの…

Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                        

アンディの故郷 ヴァージニア州 8 出来上がった家の前に、鹿やウサギが入らぬよう、三坪ほどの土を柵で囲い、瑤子はそこに野菜や花を植えた。 アンディは中古のトラクターを買い、家の周りの土地を均し、種々の果物の苗木を植えた。 小川の側の凹んだ土地に…

Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                        

アンディの故郷 ヴァージニア州 7 エミイの二度目の夫アッシュが、彼女と離婚するから引き取りに来い、と言って来た。 彼女はその二年ほど前、水兵のアッシュとカリフォルニアで結婚していた。 除隊した彼の故郷のオハイオ州まで、夫婦は彼女を引き取りに行…

Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                        

アンディの故郷 ヴァージニア州 6 オイルショックが田舎にも波紋を投げかけた。 ガソリンの欠乏と共に、車で使う不凍液や砂糖が高騰した。 アンディは、ガソリンを確保すると共に、不凍液や砂糖を買いだめした。 野生の黒苺がたわわに実り、瑤子たちのほかに…

Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                        

アンディの故郷 ヴァージニア州 5 老父はその後、妹の家に行った後すぐ腎臓を病み、入院してから肺炎を起こして一週間ほどであっけなく死んだ。 オハラ一家は近くの古い酪農家の家屋を借りて移ることになった。 その家の近くには、壊れかけた小屋とサイロが…

Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                          

アンディの故郷 ヴァージニア州 4 父親をどうするか、でアンディ兄弟が兄の家に集まって会議を開いた。 長く父親を預かっていたテッド夫婦は、そろそろ誰かに代ってもらいたがっていた。 姉のルーシイは、ホームの母親の世話で手一杯で父親の世話まで見きれ…

Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                          

アンディの故郷 ヴァージニア州 3 アンディは、毎日車で表通りの新聞受けまで新聞を取りに行き、ついでに、カウボーイが首に巻くような、赤や紺のバンダナが並ぶガラスケースや、だるまストーヴが置かれた、1920年代の映画のセットのような店で、近所の男達…

Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                          

アンディの故郷 ヴァージニア州 2 ヴァージニアでは、あらかじめ打ち合わせておいたアンディの弟、テッドが、出迎えてくれた。 早く落ち着いて子供たちの学校を決めなければならなかった瑤子は、毎日借家探しをした。 二週間後、煙草栽培人の持ち家で、緩い…

Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                          

アンディの故郷 ヴァージニア州 1 サリナスの家は住んで見ると次から次と欠点が現れた。 第一に水が悪く、プラスティックのパイプを通ってくる、三十メートルほど崖下の井戸から汲み上げる水は酷い硬水で、軟水タンクを通さなければ使えず、タンクに入れる塩…

Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                          

同情的転勤 カリフォルニア州 4 新しい家のために金が必要になったアンディは、フロリダの土地とジョージアの家を処分することにした。 その頃、エミイと結婚した男が、彼女と離婚するから引き取りに来い、と伝えてきたので、夫婦は、オレゴン州のトレーラー…

Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                          

同情的転勤 カリフォルニア州 3 ある日元気一杯のロバートが、突然の嘔吐と熱のため入院した。 盲腸と診断され手術を受けたが、すでに化膿していたので、三週間ほど抗生物質を受けながら入院しなければならなかった。 入院中、仕事から帰って夕飯の支度をし…

Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                           

同情的転勤 カリフォルニア州 2 留守家族は官舎に続けて住むことができる、と言われて、近くの観光地の高い借家に移転しなくて済み、瑤子は安堵したが、アンディが出発した後、またなにもかもが瑤子の肩にのしかかって来ることが目に見えていて、彼女の心は…

Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                                  

同情的転勤 カリフォルニア州 1 一週間ほど母の家で過ごしその後、東京の福生の飛行場から米軍機でサンフランシスコに飛んだ。 そこからアンディの次の任地であるカリフォルニア州フォートオードに行き、基地内の官舎に入った。 ロバートが生まれたその基地…